教えて! エンターテイメント
インスタグラムで話題になっている、パリのオペラ街にあるフランス人経営の和風カフェ「Kiji」に先日行く機会があり、その際に「ほうじ茶」を注文しました。
その際に出てきたほうじ茶が、抹茶のようにドロドロしたテクスチャーで、明らかに、ほうじ茶パウダーを抹茶のように使ったものだとわかりました。
飲んでみると非常に濃く、正直に言って飲むことはできない代物でした。
そのカフェは日本に買い付けに来ているという話でしたので、おそらく言語や文化の違いで誤解があったのだな、と思い、
後日、そのカフェにメールで「普通のほうじ茶は、抹茶やほうじ茶ラテのように粉末からは作らない。普通のお茶のように煎じて飲む」という事を丁寧に伝えました。
すると、カフェからは「うちのほうじ茶は粉末の碾茶を焙じたもので、乳化状(抹茶のような状態だと思います)にして飲む。これが日本の主なカフェで作られているやり方だ。私たちの生産者もこのようにして飲めと言っている。生産者が言ったことだ。」
「九州ではほうじ茶を煎じて飲むことは稀で、抹茶のように乳化状でしか飲まない。」
「富士市の茶の試飲会で粉末の甜茶・茎茶・煎茶を飲んだ。富士市の市長に会った。」(ほうじ茶の生産地は鹿児島)との答えが返ってきました。
特別お茶に詳しくなくても、日本で育った日本人なら即わかると思うのですが、これは明らかに誤りです。
私が日本人である事もオーナーには伝えてあります。
おそらくまだ「ほうじ茶ラテ」的なものと混同しているのだと思い、その旨をまた丁寧に伝えると、今度は、返信してから7−8分くらいで、
「煎じて飲む伝統的なやり方もあるが、日本の多くのカフェでは抹茶のように乳化状で飲むのが主流であり、これはモダンな飲み方である。伝統とは違うモダンな方法なのである。
私の生産者がそう言っている」との返事でした。
「それでは直接話がしたいので生産者の名前を教えてくれないか」と返すと、それ以来返事が返ってこなくなりました。
ほうじ茶を使った現代的な飲み物・食べ物(ほうじ茶ラテやケーキなど)を創作するのは、文化を広げることでもあり、創造的で良いことだと思います。
しかし「ほうじ茶」という名前をそのまま使って全く別の飲み物にしてしまうというのは、間違った日本文化を伝える行為で、
そしてそれを知っていながら自分流に日本の伝統を捻じ曲げてしまう(九州地方にもこんな伝統や文化はないので伝統の捏造をしている)事は文化の盗用に値し、日本文化への敬意に欠ける行為であるという事を、オーナーにもかなり丁寧に伝えたのですが、伝わっているのかいないのか、「日本のほとんどのカフェではほうじ茶を乳化状にして飲むのだ。」の一点張りでした。
富士市と鹿児島県の公式HPにメールで問い合わせ、この件について質問しました。すると、予想していたとおりの回答(日本で普通のほうじ茶を抹茶のように点てて飲むことはない)に加え、「富士市主催の茶の試飲会に確かにKijiのオーナーは来ていたが、粉末茶の試飲は行っておらず、ほうじ茶をそのような飲み方で教えたこともない」とのことでした。
そこで私は、富士市と鹿児島県から届いたメールを翻訳し、オーナーに「レシピの作り方を改めてほしい。知らなかったこと自体は責めないが、これは日本文化へのリスペクトの問題だ」と返信しました。すると、わずか5分ほどで、下記の防衛的かつ攻撃的な返答が届きました。
「Tout les café à Tokyo le propose en poudre, les producteurs aussi, même la ville de Fuji a validé. C’est bien vous qui devez admettre votre erreur, nous respectons sincèrement cette culture et nos producteurs.」
(東京のすべてのカフェでは粉末茶を提供しているし、生産者もそうしている。富士市も認めている。間違いを認めるべきなのはあなたの方だ。私たちは心からこの文化と生産者をリスペクトしている)
「Je tenez juste à vous prévenir que la culture japonaise est en train de changer, le thé battu est en train de faire son grand retour.」
(言っておくが、日本文化は変化しつつある。立てるお茶(泡立てたお茶)は今まさに盛大な復活を遂げているのだ)
まるで「今に後悔させてやるぞ」とでも言いたげな、攻撃的で異常な反応でした。
本人の中でも、「モダン」なのか「伝統の復活」なのか判断しかねているように思えます。
相手には私が日本人であることも伝えていますし、こちらは
ー日本の生活や文化に精通し、かなり詳細に日本茶文化について説明している
ー公的な情報源も提示している
にもかかわらず、相手は
ー日本の大多数のカフェ、特に東京のすべてのカフェがそうしている
ー生産者も同じことを言っている(ただし連絡先は明かさない)
ー富士市も認めている(直前に真逆の回答を伝えている)
と、何の根拠も示すことなく、ただ主張を繰り返すばかりです。私がこれで納得すると本気で考えているとは思えません。
在仏日本人の方であれば、「ああ、フランス人あるあるだよね」と思われるかもしれません。
ですが、私はこれは単なる「ほうじ茶の作り方」の問題ではないと考えています。
日本人の中には文化の盗用にさほど強い危機感を持たない方も多く、「日本文化を少しでも知ってもらえるならいい」「多少間違いがあっても楽しみ方は人それぞれ」と低姿勢で寛容な方もいるでしょう。
しかし、パリの一等地にある、インスタでも話題のカフェが「正しい日本文化」としてこれを発信しているのは、大きな問題だと思います。
さらに、「お前の国の文化を変えてやる」とも受け取れる発言を、日本文化を背負っている日本人に対してすることは、侮辱に値するのではないでしょうか。
西欧諸国が非西欧諸国に対して、いまだに宗主国的な態度を取っていることすら連想させられます。というか、逆の立場で起きることは考えられません。
文化は他文化との交流や影響で発展するのは確かです。
しかし、すでに洗練された日本の食文化において、外国人の誤解から文化の定義が変わってしまうのは問題です。
「外国人が勘違いしてインスタントの粉末茶を抹茶のように点てて飲むようになり、海外で日本茶を頼むとどろどろの粉末茶が出てくる」「その外国人の認識に合わせて、日本のカフェでもそんなお茶を出すようになる」──個人的には、そんな事態は大変残念に思います。
皆様にもこのカフェ「Kiji」のオーナーに働きかけていただきたく、経緯をシェアさせていただきます。
https://www.kiji.paris